水質総量規制:水質総量規制の法制度について詳しく説明します。

水質総量規制について

 目  次 :  (3) 既設、新設の扱い  / (4) 「特定施設」の考え方  / (5) 瀬戸内海特別措置法

(3) 既設、新設の扱い

★ 既設、新設に関わらず…とは、詳しくはどういうことですか?(前回の続き)
 水質総量規制基準値は ①「時期区分」  ②「C値」  ③「業種等の区分」 の3つで決まります
 以下、詳しくみていきましょう。

  ①時期区分:水質総量規制の制度が開始されたとき、既に存在していた施設は対応が困難です。
  この困難性を考慮し、既設設備と新設設備に適用するC値を分ける時期を決めています。
  これが「時期区分」です。適用されるまでに猶予を設けるための区分です。

  第8次総量規制においては、既設に対する猶予2年間が平成31年3月
  31日までとなっています。4月1日から全事業場に第8次が適用されます。

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②C値:環境大臣が定める業種等の区分と、区分ごとの濃度の範囲です。
  実際には、その区分ごとの範囲で都道府県知事が濃度 (mg/L) を定めます。
  時期区分 「o」 「i」 「j」 に応じて、考慮した数値が設定されています。

  「j」 の期間に増加した水量 「Qj」 には、その期間に該当する濃度基準 「Cj」 を掛け算し
  負荷量 L(kg/day) を算出します

<例-1>
  Aさんの事業場は、愛知県内の寒天を作る工場であり、原材料処理施設等を有している。
  新設した時期は、第6次基準の適用期間中だった。

届出見本1
  特定施設一覧の
「番号3:水産食料品製造業」の
「水産動物原料処理施設」と
「ろ過施設」と
「湯煮施設」を有している。

Aさんは整理番号:9の「寒天製造業」の業種区分の第6次基準のC値を確認し、届出を行った。
右図はCODの例。
同様に窒素含有量、りん含有量についても作成。(ここでは省略)



届出見本2
  その後、第7次を経て、平成31年4月1日から第8次基準が全面適用へ。
  Aさんは整理番号:9の「寒天製造業」の業種区分の第7次基準のC値で計算した負荷量を事業所内に周知するべく書類を掲示した。
  従来通りの維持管理をしていくことで、法令遵守出来ることを確認した。
右図はCODの例。

同様に窒素含有量、りん含有量についても作成し掲示。(ここでは省略)



※上記は「愛知県で、環境大臣が業種区分ごとに定める濃度の範囲内で知事が定めた9の「寒天製造業」のC値が、第7次基準において80→55mg/Lに変更された」事例。C値は都道府県ごとに確認が必要。


③業種等の区分:環境大臣が定める業種、その他の区分です。
  業種区分は、日本産業分類の改訂などを踏まえて、適宜見直しをされています。
  第8次規制でも、区分変更がありました。

  業種区分は、その時期区分 「o」 「i」 「j」 ごとの水量に対応します。
  「i」の期間に増加した水量は 「Qi」、 「j」 の期間に増加した水量は 「Qj」 として扱い
  負荷量 L(kg/day) を算出します。

<例-2>
  Bさんの事業場は、醤油と食酢を作る工場であり、原材料処理施設等を有している。
  平成24年の秋に醤油が増産になり、排水量も増加した。
  処理場もそれに合わせて増築し、排水増加に備える改造を行い、届出を行った。

届出見本3
  特定施設一覧の
「番号5:みそ、しょう油、食用アミノ酸、グルタミン酸ソーダ、ソース又は食酢の製造業」の
「原料処理施設」と
「濃縮施設」と
「精製施設」を有している。

  Bさんは整理番号:18の「しょう油・食用アミノ酸製造業」と21の「食酢製造業」の業種区分の第6次基準のC値を確認し、届出を行った。
右図はCODの例。
同様に窒素含有量、りん含有量についても作成。(ここでは省略)


届出見本4
  平成24年10月にしょう油が増産になり、排水量も増加した。

  平成24年5月1日から 「第7次水質総量規制基準の新増設分の適用開始」 となった。Bさんはそれを踏まえて右の様に届出書類の作成を行った。
右図はCODの例。
  増加した水量 Q それぞれに C値 を掛け算して負荷量を算出し、許容排出量を確認した。
  (18の「しょう油・食用アミノ酸製造業」は第6次基準と第7次基準でC値に変更はなし)



届出見本5
  平成26年4月1日から第7次基準が全面適用へ。

  Bさんは18の「しょう油・食用アミノ酸製造業」と21の「食酢製造業」の業種区分の、第7次基準のC値で計算した負荷量を事業所内に周知するべく書類を掲示した。

  今回は18の「しょう油・食用アミノ酸製造業」と21の「食酢製造業」いずれも第6次基準と第7次基準でC値に変更はなし。
右図はCODの例。
同様に窒素含有量、りん含有量についても作成し掲示。(ここでは省略)

 この時C値は第7次基準が適用されるが、水量 Q は時期区分がそのまま保持されることに注意。
 18の「しょう油・食用アミノ酸製造業」と21の「食酢製造業」いずれも第6次基準と第7次基準でC値に変更が無いので数値が変わらなかったが、算出方法をしっかり把握することが重要。
第8次では変更がなかったので、従来通りの水質管理となりました。


★ 実際のところ「第7次基準のC値」はどのくらい厳しくなっているのですか?
  C値は、環境大臣が業種等の区分ごとに定める濃度の範囲内で 「知事が」 定める値です。
  各事業場ごとに該当する県の情報を入手されることが必要です。

  愛知県の場合
   CODは、17業種(2.1%)で第6次基準よりも第7次基準が厳しいC値になりました。
   窒素は、38業種(5.9%)で第6次基準よりも第7次基準が厳しいC値になりました。
   りんは、61業種(10.0%)で第6次基準よりも第7次基準が厳しいC値になりました。

(4) 「特定施設」の考え方

 
★特定施設とは? 特定排出水とは?  1) 特定施設とは汚水又は廃液を排出する施設で、その種類は水濁法施行令に詳しく定められています。
  特定施設は排水処理場そのもののことではありません。

  ①工場において製品を製造する機械・設備で、汚水又は廃液を排出するものをさします。
   CODその他水の汚染状態を示す項目(生活環境項目)で、生活環境に係る被害を生ずるおそれがある
   廃液を排出する施設が該当します。
   カドミウムその他の人の健康に係る被害を生ずるおそれがある物質(有害物質)を含む廃液を排出する
   施設も該当します。
  ②201人以上合併および単独処理浄化槽は、総量規制の適用対象です。
   特に、指定地域内に設置される「処理対象人員が 201人槽以上500人槽以下 のし尿浄化槽」のことを
   「指定地域特定施設」と呼びます。
  ③敷地内に特定施設を設置している事業場を「特定事業場」と呼びます。
  ④指定水域へ50㎥/day以上の水を放流する特定事業場は、総量規制の適用対象です。

  ●指定水域とは「人口・産業の集中により、生活又は事業活動排水が大量に流入する広域的な閉鎖性水域
   であって、水質汚濁防止法に基づく 「濃度基準」 のみでは環境基準の確保が困難と認められるため、
   「水質総量削減」 の対象となっている水域」です。 具体的には、東京湾、伊勢湾、大阪湾、瀬戸内海です。
  ●指定地域とは「指定水域の水質の汚濁に関係のある地域」です。
  ※「指定水域及び指定地域」について詳しくは 総量規制 <前半> をご覧ください。

 このため、特定施設から排出される「特定排出水」と「非特定排出水」の系統を区別し
 水量(Q)と濃度(C)を明らかにする必要があります。

 水質総量規制の対象となる、特定排出水に該当するものを以下にまとめました。
     
汚濁発生源    ●=総量規制の適用対象  (対象外には×を付しています)
生活系 産業系 その他系
合併処理 ●下水処理場(生活系)●下水処理場(産業系)畜産   ●下水処理場(畜産系)
●201人以上
合併処理浄化槽
●指定地域内事業場●50㎥/日以上の畜舎(牛・馬・豚)
×200人以下
合併処理浄化槽
×50㎥/日未満
特定事業場
×その他(牛・馬・豚)
単独処理●し尿処理場×未規制事業場土地   ●下水処理場(その他系)
●201人以上
単独処理浄化槽
×山林・水田・畑等その他
×200人以下
単独処理浄化槽
×廃棄物処分場
未処理 ×雑排水 養殖×ブリ、タイ等その他


 2) 用水と排水の系統とは

 ①一般的な用水と排水の系統図

系統図1


 上図は一般的な用水と排水の系統図です。

 どの施設から何㎥の排水が排出されているのか
 特定排出水と非特定排出水の経路がどのようになっているか
 公共用水域等への排水口はいくつあるのか等を図示します。
 水がどこから来て、どこで使い、どこへ流れていくのか。
 届出の時は、これを把握し、上図のようにして添付することになります。
 ※上図では書き込んでいませんが、各排水の濃度をこの系統図に記入する場合もあります


 ②浄化槽のみが特定施設に該当する場合の用水と排水の系統図 (指定地域特定施設)

系統図2


 上図のような場合、工場(生産工程)は特定施設に該当しません。 工場の製品を製造する設備は特定施設に該当しなくても、本事例では浄化槽が特定施設の適用を受けます。
 よって、この事業場は特定事業場となります。
 201人以上の浄化槽(合併、単独いずれも)を有する事業場は、特定施設の適用対象です。  浄化槽が特定施設の適用対象となるため、以下の対応が必要です。

 処理対象人員が 201人槽以上500人槽以下 で、総量規制に係る指定地域に設置されている浄化槽のことを、特に 「指定地域特定施設」 と呼びます。
 「指定地域特定施設」 を設置する事業場は、水質総量規制および各都道府県の規制・指導に基づく水質測定義務が生じます。
 日平均排水量が50㎥以上であれば 「一律排水基準」 と 「水質総量規制基準(COD、窒素、りん)」 が適用になります。
 自治体によって 「上乗せ排水基準」 等が適用されていることもありますので、管轄行政に確認する必要があります。


 3) 浄化槽処理水と中間処理施設
 ③浄化槽処理水が排水処理場に流入する場合の用水と排水の系統図

系統図3


 注意が必要なのが上図のパターンです。
 水質総量規制とは直接関係有りませんが、ご確認ください。

 浄化槽処理水を「汚泥脱水機を有する排水処理施設」に受け入れている場合、この脱水機は、
 「生産設備以外の排水を処理する排水処理に付随する脱水機」とみなされるため、脱水機が「中間処理施設」に該当する場合があります。
 厳密には脱水機の能力 (1日当たりの処理能力が10㎥を超えるもの) によって該当するかどうかが決まります。一日に処理している脱水ケーキ量ではありません。
 脱水設備の更新を行う際は、用水と排水の系統を十分把握し、中間処理施設に該当するかどうか管轄行政に確認する必要があります。


(5) [ご参考]瀬戸内海環境保全特別措置法の対象地域

 
★瀬戸内海環境保全特別措置法に基づく 「許可」 とは?  1) 瀬戸内海においては、特定施設の設置や構造変更等があった場合「届出」と言う方法ではなく、
    瀬戸内海環境保全特別措置法に基づく「許可」という方法を取っています。

  ①特定施設の設置や変更等をしようとする時、事前評価書を添付した許可申請書が必要です。
  ②事前評価とは、周辺公共用水域に与える影響の範囲と程度を予測します。
   そのうえで環境に著しい支障を生じないことを事業者自らが立証するものです。
  ③都道府県(市)へ申請書提出 → 型式審査 → 受理 → 内容審査 → 許可又は不許可。
   と言う手順をたどります。

  事前評価が不要な場合(「水質及び水量が増大しない場合」等がその対象になります)については、
  瀬戸内法施行規則第7条の2に詳しく定められています


 2) 瀬戸内海においては瀬戸内海環境保全特別措置法 関係府県は以下の通りです。

系統図3
   京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県
   岡山県、広島県、山口県
   徳島県、香川県、愛媛県
   福岡県、大分県            2府11県
 
 以上「水質総量規制基準」のご説明でした。
 本内容について前半は

総量規制part2      (1)水質総量規制の背景と目的
     (2)水質総量規制の歴史

 をご覧ください。

 次回は「改正水質汚濁防止法・有害物質による地下水汚染未然防止」

 (1) 改正水質汚濁防止法の背景と目的
 (2)構造基準の適用例と、それに応じた管理要領
 (3)具体的な管理要領と定期点検のポイント
                                    に続きます。

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時期区分 COD 窒素 りん
S55.6.30以前の水量 Cco Cno Cpo
S55.7.1~H3.6.30に増加した水量 Cci
H3.7.1~H14.9.30に増加した水量 Ccj
H14.10.1以降に増加した水量 Cni Cpi